- 2007-12-19 (水) 23:48
- 育児

その夜の僕は、カーペットの上に毛布を敷いただけの簡素な寝床で床についていた。
傍らに寝る妻は敷布団こそ敷いているものの、大人二人が横になるには余りにも狭い1畳程度のスペースに、身を寄せる様に横になっている。
「ねえ・・・なんか・・・狭いよね・・・」
「うん・・・すごく・・・狭いよね・・・」
どちらからとなく洩れる愚痴めいた会話もこれで何度目だろう。
時刻は深夜。エアコンをつけていても指先がジン、とするような寒い夜。
固い寝床に腕が痺れなかなか寝付けなかった僕は、蛍光灯の豆球が照らす橙色の室内に目を凝らす。
場所は妻の実家。出産里帰り中の妻に宛がわれた、6畳一間の和室。
普段この部屋は両親のパソコン部屋として使用されていて、僅か6畳の部屋の中に義父の分、義母の分、2台のパソコンが並んでいる様はちょっとしたオフィスだ。還暦を迎えた夫婦の家とは、ちょっと思えない。
その横には、大人一人が余裕で入れそうな巨大ダンボールに梱包し搬送した妻の身の回り用品が、ダンボールのまま配置されている。週末を利用して、妻の出産後初めてこちらを訪れた僕は、この部屋に居候しているような形だ。
只でさえ雑多なこの部屋に、更にデカイ男が一人詰め込まれたのだ。狭いのも訳がなかったのだが、この部屋の中で、最も広いスペースを与えられていたのは、2台のパソコンでも、嵩張るダンボールボックスでも、出産間もない妻でも、当たり前だが僕でもなかった。
また腕が痺れてきた。今度は妻と反対方向に寝返りを打つと、固い何かがおでこに当たった。そこには木でできた、短く太い4本の足。
妻と、木製のシングルベッドの間に残された細長いスペースに、鰻のように挟まって寝ている僕。
寝返りひとつ満足にうてない閉塞状況に、半ばヤケクソになって堅いベッドの足におでこをグリグリと押し付けてはそのヒンヤリ感を満喫していた僕だったが、唐突に
「ふぎゃ……きゅ、きゅきゃ…………ふぎゃーーー!!ふぎゃーーー!!」
窓際に設置した加湿器の、ボコ、ボコという沸騰音だけ聞こえる静謐の中、○×泥んこクイズで正解が判っていながらあえてドロの方に頭から突っ込む若手お笑いのような勢いを持った泣き声が、ベッドの上から響いてきた。娘だ。
乳飲み子を硬い床に寝かせるわけにもいかないため、娘は恭しく、大人用のシングルベッドの上で、幾重にも、幾重にも重ねられた柔らかい蒲団に包まれてバタバタと暴れている。
かたや、身長約60センチの乳児が大人用シングルベッド。
かたや、身長150センチと170センチの大人は、1畳の床で雑魚寝。(僕なんか敷布団もない)
ガン吹かしのフェラーリのような甲高いスクリームをあげる娘に定量のミルクを与え寝かしつけ、小一時間後ようやく僕らも床についた。
釈然としない気持ちを抱えモンモンとしたまま横になる。
僕らって。
僕「思うんだけどさ」
再び豆球の暗さの戻った室内で、僕は妻に話しかける。
僕「僕らの今のポジションってさ」
ベッドの上からは、可愛らしい、小さな寝息。その足元の床に伏し、ご機嫌を伺う僕ら夫婦。
僕「完全に、じいやとばあやだよね・・・」
娘「お腹がすいたわ、じい、ミルクを用意しなさい(おぎゃー!)」
僕「はい、お嬢様ただいま」
娘「なんだか寝付けないわ。ばあや、ちょっと抱っこしてくださらない(おぎゃー!)」
妻「はい、お嬢様ただいま」
娘「私はベッドで寝るわ。あなたたちはそこの床で寝なさい。なにかあったら起こすから(おぎゃー!)」
僕「は、お嬢様。なんなりと」
一種の家庭内ヒエラルキーみたいなものが存在しているとしたら、僕らの地位、完全に召使いのそれ。
僕「娘は一等船室で、僕らは奴隷船だね……」
妻「せめて客船に乗せて欲しいね……」
自虐的に言う僕ら。
僕「今度帰ってきたらこのベッド、天蓋とか付いてるんじゃねえの……」
妻「その時はたぶん鈴で呼ばれるね……チリチリーンって……」
可能性として、一概に否定できないのがちょっと怖いのですが。
関連する投稿
- Newer: MyMiniCity用ブログパーツを作ってみました。
- Older: 愛娘相似形藤子不二雄Aそりゃビリ犬
Comments:0
Trackbacks:0
- Trackback URL for this entry
- http://hmlab.info/minor/2007/12/post-20.html/trackback
- Listed below are links to weblogs that reference
- ベッドと僕らと奴隷船 from Minor Problem
